2004年8月25日付紙面から
100メートル無酸素から舌出し走りへ
五輪のハイライトの1つ、男子100メートル決勝が行われた。この種目も、一時期とはスタイルが変わってきたなと感じた。それを説明する前に、人間が持つ3つのエンジン(エネルギー回路)について述べたい。
(1)息を止め思い切り力を出す瞬間に働くエンジン(無酸素エネルギー)。人間の最大出力であり、1秒間に筋肉1キロに対して13キロカロリーの力を発揮する。腕相撲やゴルフのティーショット、野球の打撃、サッカーのシュートなどもこのエンジン。一般の成人男子で約8秒間使える。
(2)疲労時に発生する乳酸という物質を再度エネルギーとして使うエンジン。力は(1)の半分以下の5・6キロカロリーだが、約33秒使える。(1)と(2)は無酸素エネルギーなので、息を止めれば自然にスイッチが入る。両者で約40秒間は力を発揮できる。
(3)有酸素で息をしながら働くエンジン。約3キロカロリーと力は弱いが、息している限り酸素を分解するので無制限に発生する。私たちの普段の生活にも利用されている。
ポイントはすべて筋肉1キロに対する力というところ。選手たちは最大出力エンジンを少しでも長く使いたいから、1グラムでも筋肉量を増やそうと筋肉トレーニングに励む。ただ、筋肉はそう簡単に増えるものではない。だからドーピングになる。かつてベン・ジョンソンが薬を使ったのも、カール・ルイスを抜くため、(1)のエンジンを1秒でも長く使おうとしたためだった。
しかし、最近のランナーは違ってきた。ただ筋肉量を増やした一時期と異なり、深層の筋肉(インナーマッスル)腸腰筋という部分を強化して、股(こ)関節を緩めて広げやすくしている。前半30メートルは、地面を見つめて前傾斜でスピードに乗り、腕を大きく振り、指は広げ、さらに口を開けて舌を出しながらリラックスして走るスタイルになってきた。この日も9秒台が5人も出るハイレベルな戦いだった。
個人の特長を総合的に研究して臨む。まさに科学の勝負の域に入った。スポーツが正しい方向に進んでいると感じ、うれしかった。(平石クリニック院長)
◆平石貴久(ひらいし・たかひさ)1950年11月4日、鹿児島県生まれ。東京・六本木「平石クリニック」院長。専門は内科、スポーツ医学など。サッカー、野球、陸上、ゴルフ、格闘技など多岐に渡る種目で選手、チームの健康管理を担う。
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