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後藤新弥のDAYS'
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2004年08月29日更新

支えた人々の勝利

<広司の金メダル、お家芸の復活>

 日曜日の夜9時半を少し過ぎたとき、インターネットを運営する日刊スポーツ電子メディア局に、メールが入った。

 「yes」とだけ。

 現地ジャーナリストからの、連絡だった。

 男子ハンマー投げのアドリアン・アヌシュ(ハンガリー)の金メダルがはく奪され、28センチ差で2位だった室伏広治が繰り上げ優勝がやっと確定したのだ。

 室伏は高校時代、愛知の父のもとを離れて、千葉の成田高校に「国内留学」した。父・室伏が、かねての友人だった滝田詔生監督(故人)に我が子を預け、同氏宅下宿させたのは、「獅子を育てる」ための選択でもあった。滝田氏は増田明美の恩師としても有名だが、もともとは砲丸投げの選手で、育てた選手は走り高跳びの日本チャンピオンなど、枚挙にいとまがない。

 厳しさと、愛情と、育成技術を兼ね備えた名匠だった。預かった室伏を「ハンマー投げで世界一になる前に、十種競技などにも挑戦させ、大きく大きく育てたい」と、いつも話していた。病魔に敗れたが、「これからは、お前の時代だぞ」と病床で室伏を激励した。

 千葉県木下の同氏宅に連絡すると、滝田夫人は「ありがとうございます。滝田もきっと…」と、喜んで下さった。

 室伏は、命日や盆のたびに、必ず連絡をしてくるそうだ。「恩を決して忘れない人です」と夫人は話している。

 室伏の運動着を洗濯し、3度の食事を作り、母親のいない室伏のために細やかな世話を焼いたのは、他ならぬ夫人でもあった。

 金メダルは、幾多の人々の支えによって獲得された。

 

 投てき競技は、薬物の巣窟(そうくつ)と言われたが、その中で薬物に頼らず、4回転投法のスピードと技術を磨いて世界のトップに成長した室伏にとっては、「クリーンさ」と「記録」の両方の面での勝利となった。昨年、記録した84メートル86も、「クリーンな」現役選手では最高記録だ。繰り上げの「金」は、本来受け取るべき栄誉であり、何らその価値が半減するものではない。

 日本オリンピック委員会(JOC)がアヌシュのドーピング疑惑を徹底調査するようIOCに要請した背景には、室伏自身の証言も大きな要素となっていた。「競技途中でトイレに行ったのに、競技後のドーピング検査は誰よりも先に尿が出て、終わっていた。そんなに尿がでるものではない」と、訴えていたという。

 自分の金メダルのための告発ではない。クリーンな競技のための怒りだった。

 以前から、ハンガリーの男子円盤投げのファゼカシュと、砲丸投げのアヌシュは、選手間でも「頻繁にトイレに通っている」とうわさになっていた。2人とも同じコーチに師事し、今大会はそろって金メダルを獲得した。肛(こう)門から自分の直腸に他人のクリーンな尿を入れた容器を挿入、検査時にこの尿を提出するという手口を使っていたとみられている。

 灰色だったアヌシュの疑惑は、IOCから要求された再検査を拒否したことで「クロ」に変わった。

 

 今大会は、ドーピング検査の強化で、欧米のトップ選手のパフォーマンスが大幅に低下。日本勢に大きなチャンスが回ってくると本欄でも指摘させて頂いていた。それは嬉しいことではなく、残念な現象なのだが、正義が行使されて室伏が当然の栄光を手中にしたことは、実にうれしい。(個人的にも)滝田監督のために、こんな嬉しいことはない。

 ただ、この「当然の正義」が行使された影には、(一部の)若い人が枕詞のように「体質が古い」と口にするところのJOCや、リクレンの、IOCへの働きかけの努力があったことは、忘れたくない。

 働きかけを有効にするには、国際的な努力の積み重ねが必要である。

 同じ目線から、今大会の「お家芸」復活−−体操、柔道、平泳ぎ−−は、各競技団体(キョーカイ)の地道な努力の実り、とも言える。

 体操は、復活強化のために、「体操専門体育館」建設の補助金を削り、五輪本番と同じ器具を1000万円で購入した。「大技で近道するのではなく、時間がかかっても基本技から」という信念を崩さなかった。柔道は、(海外の)審判の育成指導から、アテネ五輪対策を始めた。シドニー五輪での「誤審」? が、発端だ。

 スポーツで勝つには、選手が成績を出すだけでなく、それを実らせるために、ルールや審判技術が日本有利になるよう、行政面でも活発に、地道に、継続してキョーカイが努力することが必須条件となる。

 アテネ五輪の金メダル・ラッシュの陰には、そうした「役員」たちの働きもあった。

 

 役員だけではない。  家族、町、知人友人、名も知らぬ人。それを総称して、僕らは「日本」と呼んでいるのだ。支え、応援した、みんなの金メダル。

 喜んでいいときは、素直に喜ぼう。

 いずれにしても、次へのさらに厳しい戦いは、もう始まっているのだ。

著者の言葉
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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥

著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ

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