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後藤新弥のDAYS'
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2004年08月24日更新

ラドクリフの敗因分析

<熱中症の回避の難しさの一例だ>

 「現時点では、1万メートルに挑戦するかどうかは、まだ決断できない。マラソンでは失望させて申し訳なかった。1万メートルで英国チームに貢献したいのだが」。

 女子マラソンの敗者ポーラ・ラドクリフが一夜明けた月曜日に記者会見し、そのようにコメントしたそうだ。

 36キロ地点での脱落は、衝撃的だった。

 走ろうという強烈な本能を感じさせたが、「だれが4位かなんて、だれも気にしない。そう思うと、レースを続ける意欲がなくなった」と、レース直後に語っていた。現実には世界中のスポーツ・ファンが、それまでレースをリードし、苦しい上り坂を懸命に先頭で走っていた彼女の勇気をたたえ、いったん止まりながらもまた走り出したときの感動に身を震わせていたのだが、沿道の雰囲気からは、それが彼女にフィードバックされなかったようだ。

 ラドクリフに何が起きたのか。

 ロス五輪のアンデルセンの「よろめきゴール」にも似た場面は、ラドクリフだけでなく、何人かの選手にも同じように起きた過酷なレースだっただけに、その実像を知ることは、今後のスポーツ科学にとっても重要なことだろう。

 しかしラドクリフ本人は月曜日、「私自身、何が起きたのか、懸命に理解しようとしているが、はっきり言ってそれがまだ分からない」と話している。

 「1つだけはっきりしているのは、暑さが原因ではないということだ」とも。

 つまり、こちらから見ると、暑さが最大の敗因だったと、告白しているようなものだ。正確には、暑さ対策、だろう。

 ご存じのように、こうしたレースでは1時間に通常1リットル以上の汗をかくが−−男子マラソンではゴール時に体重4キロ減という例がある−−いかに頑張っても、通常は1時間に摂取できる水の量が0・5リットルと言われている。

 日本選手は練習と研究の積み重ねでこのマージンを縮めているかも知れないが、それでもレース終盤では体の内側の水分が不足し、水分が不足すれば熱の放出が不十分になって、熱中症になる。事実、優勝した野口も、その症状を表して、ゴール後吐き、ドクター・チェックを受けた。途中で吐いた選手も何人かいた。

 科学の助けが、助けにならないこともある。

 体験からの考察だが。

 異物の混じったスポーツ・ドリンク(スペシャル・ドリンク)は、通常ならその成分によってプラス効果を発揮するが、極度の水不足になった肉体にはマイナスになることもある。ちなみにこうした水分補給目的では、スポーツ・ドリンクは3倍程度に薄めて飲むのがよさそうだが、極度な水不足になると、塩分調整の関係から、真水も摂取を拒否される場合もある。飲んでも吐く。

 一方で米国チームはグリセロールの活用で成功したらしい。

 ラドクリフは、水分のコントロールが甘かったのかもしれない。「下半身に全く力が入らない状態になった」と話しているからだ。「脚に何も(パワーが)ない感じだった」と。それは、熱中症を意味している。

 また、ラドクリフはレース前30分間、クーリング・ベストを着用していたと聞く。

 クーリング・ベストは日本ではあまり紹介されていないが、アトランタ五輪で試用され、シドニー五輪でかなり効果をあげたとされている、単純な「人体冷却装置」だ。冷たい水(ジェリー?)の入ったベストを着ることで、肩から胴体を冷やすもので、アウトドアの競技では実験でもパフォーマンスの向上が一部確認されていた。

 ただ、マラソンで考えると、ウオームアップ後に、また体を冷やしてしまうことになり、肺や肩に逆に悪影響を与えたのではないか、という見方が、現地の医科学関係者の間では強いようだ。ベスト自体は、場合によっては効果を発揮できる便利グッズだが、レース直前の活用法には、今後さらなる研究を望みたい。

 ラドクリフのチームメート、イエリングは「彼女がどんなに激しい練習をしてきたか、私は知っている。それだけにかわいそうだ」とコメントしながら、同時に「たぶん彼女はコースの怖さをなめていたのだろう」ともコメントしていた。

 コースのアップダウンの激しさをさすのだろうが、気温もまたコースの一部であり、アテネ特有の熱の反射や、輻射(ふくしゃ)熱のことも、十分に計算されていなかったのは、間違いない。

 しかしそれ以上に彼女を苦しめたのは、「上り上手な、仲良し3人組」のあおりだと、見る。

 ラドクリフもヌデレバも、きつい上りをナチュラルに走り抜けて、後半勝負という戦法だった。彼女たちのナチュラルとは、きつい上りでは当然ペースを落としてやり過ごし、斜度の緩やかな部分はふつうに速く走る、というものだった。

 ところが今回は実にあうんの呼吸でチームワークが整った日本人3選手は(いつもは互いに意識しすぎて仲間割れする)、きつい上りでもスピードをあまり落とさず、我慢してぐいぐいと走った。そこで、ラドクリフには違和感が生じた。一緒に走っているのだから、苦しさは同じはずなのに、きつい上りに来ると、後ろにいた日本選手が「あんた、おそいわね」と言わんばかりにあおり始め、ついには横に出てきて、先行しようとする。

 要は、きつい傾斜での走り方に差があるだけなのだが−−日本選手は速度の落ちが少ない−−自分がレースをリードして常に先頭を走る決断をしているラドクリフには、細かな起伏が連続し、その度に小さな東洋人にあおられ、その現象を冷静に分析することができないままに、焦り、ペースを崩し、いつの間にか体力を消耗してしまったのではないか。

 相手が1人なら対処できたろうが、集団であおられ、「ナチュラルでないのはあんたよ」とばかりにきつい上りの度に抜かれそうになったのでは、確かにたまらない。裏を返せば、日本のチームワークの勝利でもあった。

 その証拠に−−。

 クロスカントリーをよく知っているヌデレバは、きつい上りになって日本選手と「上り方の差」が出る場面では、しっかりと後退し、自分のペースで上っていた。その度に遅れたが、そして最後の上りでも遅れたが、自分のペースを守りきることで、優勝はできなかったが、野口にラストは肉薄する走りを完成させた。ラドクリフと、その点が対照的だった。

 しかし、ラドクリフはまだ、そこら辺りの分析ができていない。

 熱中症の影響が、まだ残っているのだろう。

 −−と、僕なら分析するのだが、人それぞれ、「あれはこうだったのだ」と断定的に言い合うのを聞いていると、とても面白い。

 野口は、サンモリッツでの下りの練習が大きな効果を発揮したと思う。

著者の言葉
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著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ

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