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後藤新弥のDAYS'
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2004年08月20日更新

「絶対本命」井上の敗退

<スポーツに絶対なんてないと思う>

 サッカーをテレビで見ていて、とても不愉快になることがある。

 「決定的チャンスでした!」という、絶叫型のアナウンスだ。

 現場で中継していて、確かに「これは決定的なチャンスだった」と感じるからそう表現するのだろう。だから批判することはできないが、「決定的チャンス」と叫ぶときは、必ずそのチャンスが生かせなかったときだ。「それなら、成功するときに、寸前に言ってみろよ。決定的チャンスでーす。ほーれ、入れました」と。そんな風にひねくれたくなる。

 決定的チャンスなんて、そうやすやすとはない。ましてやゴール前、ピンポン球のようにボールが行き交うときに、結果的には「あそこでこう蹴れば」とあとで感じるシーンは山ほどあるが、それはサッカーをそこでやっていない側の感性である。

 決定的チャンスという言い方は、客観的な表現ではなく、「にもかかわらず、この選手は決められなかった」という主観的事実の表現とも受け取れる。

 決められない選手、勝てない選手に対して、何かその失敗を責めるような見方をするのは、どんなものだろう。

 練習の密度や、取り組みの姿勢。言動や倫理観の面で、ときには選手に、コーチに、協会に苦言を呈することはあるが、試合は生き物だ。1人でするものではない。

 試合そのものでの失敗を責めるのは、フェアではないような気がする。


 柔道の井上康生が、4回戦で負けた。

 厳しい見方をする人もいる。

 なぜ? がちがちの本命だったのに、ふがいないと、憤る人もいる。

 それはファンの側の自由だ。

 「なんだ、あいつは。だらしねえ」と怒る人ほど、実は井上の熱烈なファンだったりする。行き場のない怒り、井上への思いやりなどが、逆に非難の言葉になったりすることも、多い。

 ただ、「絶対の本命だった」という言い方は、したくない。スポーツに絶対はない。

 相手が捨て身だったようにも、見受けた。

 自分が勝つ柔道と言うより、相手に勝たせない柔道。例は悪いが、相撲のけたぐりのような印象が残った。それでもチャンピオンは勝たねばならないのだが、井上は焦り、自分を見失ったようだ。焦るのは、(王者として)まだ未熟なせいだとも言えよう。けれど、怠けたわけではない。

 柔道男子100キロ級の今回は、磁気嵐に見舞われたような波乱が続いた。予想外の敗退は井上だけではなかった。

 こういうことも、あると思う。

 逆に、これまで五輪ではころころと負けて泣いていた阿武(あんの)が、金メダルを取った。そういうこともある。

 当時世界新記録を連発していた水泳の古橋広之進さんが、ヘルシンキ五輪本番ではふがいなく8位に終わった。アナウンサーは、「古橋を責めないで下さい」と、涙声で実況した。それもまた、「伝える」者のプロの姿勢として議論の余地はあるだろうが、「決定的チャンス」という絶叫より、人間味を感じる。

 井上を責めたくない。

 本人が一番、分かっていることではないか。 勝てば官軍、負ければ賊軍。

 それは仕方のないことだが、できることなら、敗者の努力、その積み重ねも讃えたい。

 

 井上に何が起きたのか。

 試合前に、ブランドもののショッピングをしたのか。町のレストランで、酒を飲んでいたのか。

 練習をさぼっていたのか。

 慢心していたのか。

 本番で油断したのか。

 あるいは、よくあるように、故障が続き、本来の力が出せなかったのか。

 古橋氏の場合は、南米遠征でのアメーバ赤痢が原因だった。

 井上は、ヒザとヒジに故障を起こし、相当に苦しんでいたとも、聞いている。

 「日本のエース」としての責務を負わされた以上、「実は私、故障がありまして」とは、もう言い出せなくなっていたのではないか。それでも、黙って、戦場に出て行った。

 負けた。

 「けがは関係がない」。柔道の関係者の多くは、そのように断言する。

 そうかもしれない。

 井上は否定しない。自分が弱いから負けたのだ、と。

 「こんな屈辱やつらさは、味わったことがない。これをプラスにして、はい上がっていこうと思う」と話したそうだ。

 その不屈の精神に、僕はメダルをあげたい。金ではないにせよ。


著者の言葉
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著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ

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