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後藤新弥のDAYS'
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2004年08月14日更新

最終走者は「風の息子」

<ヨット選手が救った開会式の危機>

 1986年4月。

 アテネでオリンピックが復活したとき、ヨット競技だけは荒天で実施されなかった。  このため、今でも第1回大会の「実施された競技数」を8とするか、ヨットを含めて9とするか、歴史家の間でもしばしば論議が起きるほどだ。(注=体操の中に含められて実施されたウエート・リフティングの扱いと「プラス・マイナス」で9とする向きもある)。

 皮肉なことに、2回目のアテネ五輪開会式を救ったのは、そのヨットの英雄だった。

 ニコラオス・カクラマナキス(35)は、アトランタ五輪の金メダリスト。風の息子、と呼ばれて、その毅(き)然としたスポーツマン精神、人柄で、ギリシャ人だれにも愛されている。エーゲ海の息子でもある。むろん、今大会にも出場する。

 選手団の作る花道を進み、天から下りてきた聖火台に、ゆっくりと点火した。

 開会式は決して華美ではなく、どちらかと言えば「部屋のカーテンや、ある物を工夫して楽しげに演出した」手作りのパーティー、簡素で好もしい印象があった。

 聖火の最終走者は、実は陸上競技のスター、シドニー五輪200メートル金メダリストのコンスタンティノス・ケンデリスが予定されていたと聞く。

 ところがケンデリスは、開会式当日の未明、同じ陸上競技の女子100メートル選手で、シドニーでは銀を獲得したエカエリニ・サヌ選手とバイクに乗っていて事故に遭い、市内の病院に入院。

 急きょ、最終走者に指名されたのが「風の息子」だった。

 開会式の歌や演出は「エーゲ海」がテーマとなり、命や文化の源である海への想いがことのほか強調された。

 ギリシャ人はとても海を大切にしている。海と生きている。

 何年も前にギリシャへ取材に行ったとき、塩分のせいか泳ぎやすいので、小さな湾を1人で遠征横断する冒険をしてみた。わずか1キロ半程度だったが、驚いたのは、湾のど真ん中で、もう岸から完全に離れているのに、ワイワイ、キャアキャアと、実に賑やかな談笑が聞こえたことだ。

 近づいてみると、腹に風船をかかえたような(笑い)、いい体格の、いわゆる「ギリシャのおかみさんたち」が、背泳ぎスタイルで輪になり、延々と午後のおしゃべりを楽しんでいたのだ。別に岩があるわけではない。塩分濃度と、体格のせいだろう、何もしなくても浮いている。浮きながら、初夏の海でのゆったりとした時間を楽しんでいる。海の上での井戸端会議。一種のカルチャー・ショックを覚えたものだ。

 エーゲ海育ちの「風の息子」は、開会式に、実によく似合っていた。冷静さと、勇気。オリンピックが求める「スポーツマンとしての人間性」を、彼は体で表していた。

 けれど、ケンデリスの事件は、21世紀のスポーツが抱える巨大な問題の、あまりにも象徴的な汚点だったかもしれない。

 ケンデリスにはかねてから禁止薬物使用の疑惑がかけられていた。IOC(国際オリンピック委員会)は、しばしば練習中の選手に対して「抜き打ち検査」を実施して、選手達の違反抑制効果を狙っているが、ケンデリス(及び儀留者の陸上陣)は、これを故意に回避することが少なくなかったといわれている。

 抜き打ち検査に協力? するため、選手は所在地を明確にしておく義務があるが、ケンデリスは検査チームがやってくると、いつも「たまたまどこかに出かけていて」受検していなかった。今大会前も、「今度こそ選手村で捕まえるぞ」と張り切った検査チームに肩すかしを食わせて、町に出ていた。

 IOCは事態を重視し、「絶対に譲らない。ケンデリスを是が非でも受検させる」と方針を固めていた。受検拒否は選手資格剥奪につながることが決められており、開会式が近づくにつれて、ギリシャ側とIOC医事委員会との緊張が高まっていた。

 ケンデリスは、喚問を受けていたが、その数時間前にサヌを乗せてバイクで市内を走り、事故を起こし、軽傷とは伝えられながらも「入院」を継続。開会式には「事故のため」参加できなくなったが、最悪の事態を避けるための、「政治的な事故・入院」ではないかと、噂されている。

 最悪の事態とは、「故郷に帰ってきた五輪が、最終聖火走者の薬物違反で汚される」ことだ。それが世界に知れ、歴史に残されることだ。 

 「本当は意図した事故ではないか」「入院中に尿を取り替え、違反の痕跡を消すのではないか」などといううがった見方まである。

 けれど歴史の表面は、汚されることなく、何も起きなかったかのように、大会は進行している。

 「風の息子」が、救った。

 実際はアテネは、スポーツは、現代の正解は、開幕直前に、大きな「問題点」を突きつけられたに等しい。それは、20世紀からの、自分たちの問題だった。

 このことも、心あるスポーツマンは、心に留めておくだろう。


著者の言葉
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著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ

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