金メダルは7個か
<海外からの予想を覆す武器は奔放さ?>
アテネ五輪の鼓動が大きくなってきた。
スポーツ・イラストレーテッド誌は、日本の金メダルは7個と、予想を出してきた。
個々のメダルや成績を予想することは難しく、実際には予想というよりギャンブルの面白さに近い部分が出てくるが、7個というのは、少し辛い。
過去の例を振り返ると、海外からの予想点が意外に当たることが少なくない。これは「大ざっぱに、世界選手権などの成績からランク付け」した、ストレートなデータだからこそ、雑念が入らなくてーという裏もある。
競技種目や選手なりの事情を絡めない視点だと、個々ではずれがおきても、「まあ、全体的には平均値」となり、結果的に全体のメダル数などが「当たり」になる。
裏を返せば、ケガなどの故障はだれにでも、世界各国共通で、予想できないハプニングの確率も全体としては公平だということなのだろう。
それでも、柔道の谷、野村らの金メダル率を、僕らはもっと高く評価したいし、団体競技では野球の金メダルが欲しい。
長嶋監督の「現場不参加」が確定した。
盛り上がり、といったムード的な側面からはきわめて残念だが、アテネに行かずとも「長嶋JAPAN」というスタンスは不変のようで、賛否両論あるだろうが、この点は納得できる。
野球の金メダルがあるかないかでは、アテネ五輪の成果そのものに大きな差が出てくる。
詳しい実力評価は野球の専門家に委ねたいが、スポーツ全体の視点から一つ感じるのは、「日本の野球の枠を飛び出した野球じゃないと、キューバには勝てないのではないか」という不安だ。
五輪では、これまで5度キューバと当たり、一度も勝てなかった。日本の優勝を阻んだのも、キューバだった。
イメージからすると、優れた身体能力、きっちりした基本、そして闘志といった野球になるが、キューバの本当の怖さは「その荒々しさ、強烈な個性、大リーグよりももっと拡大した野球観」にあるのではないだろうか。
長い間の伝統、歴史の蓄積が、時にはマイナスになることもある。教科書的な野球は、すべての基本として必要だが、ともするとそれに無意識に縛られ、それを発想の原点としてしがみつくような事態も起きる。
何も野球だけでなく、サッカーや陸上競技でも同じだ。
個人競技では、そうした目に見えない先入概念を、だれかがしばしば突き崩し、突破し、新しいレベルに進んでいくが、団体競技だと組織ぐるみで停滞し、それなりに盛り上がりながらも、もっと広い、大きな視点から見ると方向がずれてしまう、などということが、しばしば起きる。悪いことでもなければ、その責任を問うべきようなことでもない。一所懸命やれば、やっている内に、そういうことが必然として起きる、というだけのことだ。けれど、停滞や後退、萎縮といった現象は、どこかで時々、是正する時期が必要だ。
キューバの野球は、そうした意味ではきわめて個人主義であり、個性的であり、枠になど縛られない原点の強さを持っている、と説く人は少なくない。日本が勝てないのは、体力や技術よりも、むしろその「体験したことのないような、突拍子もない野球の性格」にあるのではないだろうか。
長嶋監督に(一部の)専門家が求めていたのは、まさにその点だったろう。長嶋さんなら、既存の野球観とは別の視点を持っているだろう、キューバの奔放さを上回る自由な発想ができるのではないか。
御大の現場不参加は、その意味でも残念だが、せめて「奔放な野球」の路線だけでも、アテネで実行してみて欲しい。
考えてみると、日本のサッカーがジーコ氏に期待した多くの部分が、同じような「日本のサッカー観を超えた、奔放な」発想だったかもしれない。
その奔放さが具体的に何を指すのか、それが分かれば苦労はないが、手探りの試行錯誤が続いているのが、現状と言っていいだろう。
それにしても、スポーツというのは「基本のど真ん中」の重要性と、枠を無視したような奔放さとの、永遠のシーソーゲームだという印象を、強く受ける。
アテネ五輪で日本が「金7個」予想をいい方向に覆すには、どちらかといえば奔放さと運が必要であり、しかし確実に7個を仕留めるには、大事にしてきた基本を形に生かすことだ。
是非、覆して欲しい。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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